2022年11月4日、我々は「じゃれ本」というサービスを利用して怪談を作るという企画を行いました。
我々は活動を通して、8つもの怪談を作ることができました(中には怪談なのか怪しいものもありますが)。カンタンに面白い話を作ることができる「じゃれ本」、すごいです。
ここでは実際に作った怪談の中から3作品をご紹介します。
↓目次
泳ぐみかん
気がついたら水面を漂っていた。体か思うように動かない。何も思い出せない。
私は誰なのか。なぜこんなことになっているのか。周りを見渡しても何もない。と思っていたが、その時私は遠くのほうに浮いているオレンジ色の謎の物体を発見した。
それは、彩度の高い橙色をした泳ぐみかんである。私は、記憶も失い、ついには、幻覚まで見るようになってしまったのか。
「おい、俺の姿が見えるのかい?」
件のみかんは、快活に私に、言葉を投げかけた。
「いや!知らない!聞こえない!!」
現実の受け入れができず、目を閉じてふさぎ込む。するとたちまち泳ぐみかんは目が落ちくぼみ、骨ばった水かきのついた手が生え、口はまさしく深海魚のように変化しこちらへ来る。
こちらへ向かってくるスピードは到底蜜柑のそれだとは思えないほど速かった。蜜柑はすぐ近くまで来て止まった。
その時、海の底から何かが現れた。巨大魚である。それは一瞬の出来事であった。巨大魚が蜜柑を呑み込んだのだ。
私は、突然の出来事に驚きを隠せなかった。
巨大魚は、みかんを飲み込んだその直後、私に向かってとびかかってきたのである。
私は、死を覚悟した。
しかし、突然、巨大魚はその勢いを失ったのである。
沈黙が流れる。しばらく後、魚がビチビチと激しく痙攣し始め、静かになる。魚の腹を先程の長い骨ばった手が突き破った。魚の目は飛び出し、口内からはさらにおぞましい表情のみかんが真っ赤な口を開けて襲いかる。
その様子はまるで飢えた化け物のようだ。蜜柑の姿とは到底思えないものとなっていた。
私は蜜柑の化け物に呑み込まれた。それが私のあっけない最期であった。蜜柑に喰われて死ぬ。なんとも言えない人生である。
(4人連作)
おばあちゃんがいっぱい古城
その城は、崖の上に建っていた。焚火の燃え残りのような薄暗い灰色をしている。
人はその城をおばあちゃん城と呼ぶ。
平和な村を見下ろす崖の上に立つ城。何百年もむかしからそこにあるが狐一匹さえも近づこうとはしなかった。しかしそんな中二人の少年が城の入り口に近づいていった。
少年らが城門に近づくと巨大なそれは勝手に開いた。まるで彼らを誘うかのように。
先へと進み、大きな扉をノックする。
「どなたかいますか」
少年のひとりが叫んだ。広い城内は閑散としていて、ただただ少年の声だけが響き渡る。と思えばその沈黙は案外すぐに解かれ、奥の方からぞろぞろと騒がしい軍団が現れた。
「なんだなんだ!?」
そこに現れたのは、老婆たちである。
「珍しい客人だねぇ」
サングラスをかけた老婆が、太った猫をなでながら、つぶやいた。
「皆さん、こんちっはー」
僕らの後方でしわがれた叫び声がこだまする。
「まあ、ゆっくりしていきな」
と、穏やかな口調で言う老婆。言いながら大きな扉をがたんと閉め、カギをかける。老婆は笑ったままでいる。ある老婆が夕食を持ってきた。違和感のある食材ばかりだった。
見たことのない奇妙な野菜に、異形の魚、その形から人肉を連想させる謎肉。おばあちゃんはどこからこれらを持ってきているのだろう。そんなことは、さておき謎肉の正体は一体何なのだろうか。
「これはもしかして、日清カップヌードルの謎肉ですか?」
少年の一人が近くにいたおばあちゃんに聞いた。
「違う。これはおばあちゃん缶の肉じゃ」
「おばあちゃん缶って何ですか?」
何もかもが謎である。
「おばあちゃん缶っとはな、おばあちゃんの肉をいぶして缶詰にしたものじゃよ。ちなみに、ヒカキンズポイントは28点じゃ」
僕は、その点数の低さではなく、その缶詰の猟奇性に驚いた。
「食べないとは言わんよな?」
老婆たちに食べることを強制され恐る恐る口には運び、飲み込む。するとたちまち体から湯気が立ち上り、痛みが全身を走る。霞んだ目で鏡を見ると、そこには皺だらけの顔が映っていた。
(4人連作)
カラフルダイオウグソクムシ
私は知っている。私の家で飼っているダイオウグソクムシ、こいつ人間の言葉を理解している。それどころか、夜になると水槽を抜け出し町に繰り出していることも知っている。どういうことだ?真相を暴いてやる。
私は、ダイオウグソクムシことダイちゃんが街に繰り出す時間を見計らい、後をつけた。
しばらくつけていくと、ダイちゃんは、繁華街の方へ、向かっていることが分かった。
私はダイちゃんが繁華街の中の、小さいながらも派手な店に入っていくのを見た。あれは何の店だろうか。私は後を追うように店内に入っていった。
外装の派手さからは想像もつかないほど、店内は薄暗かった。
すでにダイちゃんの姿は見えず、声をかけても返事がなかった。
急に怖くなってきた私の顔に、突然冷たい液体が降りかかった。
はっと天井を見上げると、机ほどの大きさのグソクムシが爪を食い込ませて口から体液を滴らせ私を見ている。体はこの世の生物とは思えないほど色とりどりだ。
「ダイ…ちゃん…?」
グソクムシは顎をきしませた。
「こんばんはというべきかな、ご主人」
ダイちゃんは、その見た目に反した幼子のような声で私に話しかけた。女の子だったのか...
「見ちゃったね。ご主人の作る料理、アチキ好きだったのになぁ...お別れね」
「待って」
自ずと私はダイちゃんを引き留めていた。
「お別れなんて嫌だよ!」
しかしダイちゃんは悲しい目をして言った。
「駄目よ。見てしまったんですもの。もうお別れです」
私の世界から色が消えたような気がした。
いつの間にか、私の足元はびしょびしょに濡れていて、巨大なダンゴムシのようなものが横たわっていた。
「気持ち悪」
私は思わず後ずさり、色とりどりの店が立ち並ぶ商店街を駆けて帰った。
(4人連作)
振り返り
いかがでしたでしょうか。
少々内輪ネタが入ってしまっていることは否めないので読んでみたけどよく分からなかったという方はいらっしゃるかもしれません。
でも少しよく分からない部分があるにしても、面白い話にはすることができたのではないでしょうか。
ちなみに筆者のお気に入りは「泳ぐみかん」です(笑)。
「じゃれ本」は1ターンにつき1人1~2文文章を書いてそれを次の人にまわして次の人が文章を書き足していく、というのを繰り返していくシステムなのですが、この「じゃれ本」の面白さは自分の1人前の人の文章しか見ることができないというところにあるのではないかと思います。それより前の文脈を知ることができないので、途中で話の流れが急に変わったり、主人公の一人称や区長が急に変わったりということが起こりうるんですよね。完成した白昼夢のような物語を読むのはとても面白いです。
第2弾が楽しみですね。
閲覧ありがとうございました!
(執筆:副会N イラスト:副会N)